交渉と競りを楽しもう!

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学生時代に私が初めてハマったボードゲームは「モノポリー」なのですが、このゲームは
ダイス運の要素も大きいものの、極端に言えばプレイヤー間の交渉が全てと言っても良いくらい、
プレイヤー間の交渉の成否が勝敗に大きな影響を与えるゲームでした。
それ以外にも、当時プレイしたゲームは、「戦国大名」や「砂の惑星DUNE」等、
交渉の要素の入ったものが多かったように記憶しています。

現在「希望の船」で扱っているゲームをふと確認してみて、
実は交渉の要素のあるゲームが思った以上に少ないのに少々驚きました。
交渉があったとしても、「カタン」のようにゲーム全体に交渉の与える影響は比較的限定的なものが多いですね。
そんな中で、実は「モダンアート」の競りが、プレイヤー間の金銭授受という点で
「モノポリー」等の交渉のイメージに近い
と私は思っています。

ゲームで交渉の割合が増えるという事は、ある意味バランス調整をプレイヤーに委ねると言う事であり、
これはゲームの深みを増す反面、時としてプレイヤーのミスでゲームバランスが壊れてしまう危険をはらんでいます。
私見ですが、最近のゲームはシステムの枠組みがしっかりしていて、プレイヤーがシステムによって
こうした危険から守られているタイプのものが多い
為、交渉をメインにおいたものが少ないのだと思います。
その事自体は決して悪い事でなく、むしろ初心者の方でも安心してプレイできるという意味でも、
昔に比べ今日のゲームの素晴らしく進歩した部分というべきだと思っています。
そのゲームに不慣れなプレイヤーの、不用意なプレイひとつで、ゲームが壊れてしまう可能性があるという事は、
今日的な目で見ると、そのゲームの「欠点」と評価されておかしくないですし、
良く言っても「慣れないうちはとっつきにくいゲーム」と言う事になってしまうのでしょう。
ただ、個人的にはプレイヤーの駆け引きによってゲームバランスを取ろうとする交渉の楽しさ
次第に「過去の物」になってしまうのは、少し残念な気もしています。

今回のコラムでは、「希望の船」内で把握が難しいと言う声の多い、「モダンアート」の競りで
何が起きているかと言うお話(「モダンアート」のルールをご存じない方でも問題ないです)を中心に、
ゲームにおける交渉(プレイヤー間で金銭やカード等の授受のある)競り全般に通用しそうな
基本の考え方について書いてみます。
「モダンアート」の通貨単位は「$(ドル)」ですが、イメージしやすいように「円」で表記します)


今、将来銀行に60円で売れるとあなたが見積もった絵画を、A君が競りに出しています。
あなたはそれを55円で競り落とす事に成功しました。
絵画を出品したA君に55円を支払い、あなたはほくそえみます。
「フフフこの絵の価値がわかっていないボンクラどもめ…」
精算時に思惑通り銀行から60円を得たあなたは、ホクホクです。
…さて、あなたは本当に得をしたのでしょうか?

あなたはこの取引きで、確かに差し引き5円の利益を得ましたが、
冷静になってみれば、A君は単純に55円の実利を得ているのです。
しかも、A君の利益はあなたから支払われましたから、A君は絵を売った時点で、
あなたに出入りで110円の差をつけた事になるのです!(*1)
(これが、プレイヤー間で金銭授受を行う競りと、銀行と行う競りとの最大の違いです)
流石にこれでは、自分の僅かな利益の為に相手に与えた利益が大きすぎますよね。

いくらなんでも、そんな馬鹿げた値付けをする人はいないと思いますか?
実はこれ、初心者同士の「モダンアート」では、極めて良く見かける光景なのです。
「競り」という文字の通り、他のプレイヤーとの競い合いになってくると、
人間と言うのはついついアツくなってしまうものなんですね。(笑)


では、上記の例で「正しい」落札価格はいくら位なのでしょうか?
(実際の「モダンアート」では、ラウンド終了まで絵画の価格は未確定なのですが、
話を簡単にする為に、銀行の買取価格は60円で確定とします)
実は、その答は決して簡単ではありません。

あなたとA君2人の間だけであれば、上記の条件で公平に利益の出る落札価格は明らかに30円です。
A君はあなたから30円の実利を得て、あなたも銀行から60円を得る事で差し引き30円の利益得ます。
(A君は出入りであなたに60円差をつけましたが、あなたも銀行から60円を得ました)
では、これが適正な落札価格なのでしょうか? 実はそうではありません!

あなたがこの金額で落札すると、あなたとA君は公平に30円の利益を得ます。
あなたとA君2人の間だけなら、この取引で問題ないかも知れませんが(*2)、
他のプレイヤーから見ると、そうはならないのです。
例えば4人プレイだとして、このままあなたとA君が取引を成立させると、取引に参加できなかったB君とC君に対して、
あなたとA君が30円のアドバンテージを得た事を意味します。
B君やC君から見れば、このままあなたとA君が30円ずつ儲かる取引が成立する(交渉がまとまる)のを
指をくわえて見ている位なら、多少A君に得をさせても、競りで30円に更に上乗せをして、
自分が取引の当事者になりたいと思うでしょう。
例えば、Bくんが競りであなたの30円に1円上乗せして31円でA君とB君の取引が成立したとしましょう。、
A君の儲けは31円、B君の儲けは29円ですから、この取引でB君はA君に対しては2円の損をしてしまいました。
しかしながら、あなたとC君に対しては29円のアドバンテージを得ることが出来た訳ですから、
B君は取引の当事者になる事で、損を差し引いて余りあるだけの見返りを得たと言って良いのです。


「モノポリー」のような交渉ゲームで勝てないプレイヤーの典型的なタイプのひとつが、
「自分が圧倒的に得でなければ、絶対に交渉をまとめようとしない強欲タイプ」です。
しかしながら、双方に利益のある交渉なら、積極的にそれをまとめる事によって、
(当事者間に多少の損得はあっても)交渉をまとめた二人が得をすれば、
それ以外のプレイヤーに対して相対的なアドバンテージを得られるのです。
(*3)
それをわかり易く数字で表しているのが、上記の例なのです。

また、交渉のあるゲームの苦手な方の中には、相手がいつも自分を騙そうとしているのではないかと疑って、
極端に交渉に消極的になってしまう方も少なくありません。
そして困った事に、相手が初心者と見ると騙してボロ儲けしようとするタイプは、確かに一定数存在します。
(気のおけない身内のゲーム会や、メンバーの雰囲気次第では、それも大いにアリだとも思うのですが…)

それでも交渉のあるゲームで交渉を恐れていては、勝利がおぼつかないばかりでなく、
そのゲームを十分に楽しむ事が出来なくなってしまいます。
「騙される事」を恐れるあまり、「相手が少しでも得をする交渉には、頑なに応じようとしないタイプ」も時折見かけるのですが、
普通に考えて、ゲームで自分に全く得のない交渉を持ちかけてくるプレイヤーなど、いるはずがないですよね。
繰り返しになりますが、(あまりに一方的な条件でなければ)交渉や競りのあるゲームで、
双方に利益のある交渉(取引)をまとめる事は、多くの場合悪い手ではありません。
交渉を成立させる事は、交渉ゲームを勝つための第一歩なのです。
付け加えるなら、本当の意味で上手なゲームプレイヤーであれば、たとえ初心者相手であっても、
ゲームバランスを壊すような滅茶苦茶な交渉は仕掛けてこないものです。
ゲームバランスが崩れてしまうと、仮に自分が得をしても、折角のゲームがつまらない展開になってしまいますし、
「彼は自分が有利な交渉しか仕掛けてこないプレイヤーだ」と相手プレイヤーに思われる事は、
純粋に自らの勝利の為を考えても、長い目で見て決して得ではないからです。(*4)


もう少し「モダンアート」の例を続けましょう。
あなたは、将来60円で銀行に売れる絵を、A君から40円で落札しました。
A君は「ラッキー40円の儲け。彼の儲けは差し引き20円。フフフ馬鹿なやつ」とホクホクです。
次に、あなたはB君からも将来60円で銀行に売れる絵を40円で落札しました。B君もニヤニヤです。
更にあなたは、C君からも将来60円で銀行に売れる絵を40円で落札しました。C君もニコニコです。
精算後、A君B君C君の利益は40円、あなたの利益は20×3で、60円です。
勿論、実際のゲームでそう簡単に事が運ぶわけではありませんが、双方に利益のある競り(交渉)を
積極的に成立させるメリット
を、最も単純に示せばこういう事になります。
取引(交渉)の当事者以外には、利益が生じない事が重要なポイントです。


更に言えば、その時点での順位も、競り(や交渉)の適正価格に影響を与えます
下位の相手との取引なら、ある程度相手に有利でも、自分に利益があればしてかまわない場合も多いですし、
逆に、かなり自分が得な取引と思っても、トップ目に何らかの利益を与える競り(や交渉)には慎重になった方が良いでしょう。(*5)


そろそろ、結論が見えてきましたね。
「モダンアート」の競りで、適正な落札価格を判断するのは、大変難しい
と言うのが、恥ずかしながら私の結論です。(苦笑)

そして、もうひとつの結論を。
競りや交渉のあるゲームでは、難しいからと逃げ腰にならず、
大いに競りや交渉を楽しもう!




(*1)後に銀行から受け取る絵画の代金60円分を足して、最終的なあなたとA君の差は50円です。
(*2)2人プレイの場合、このケースの妥当な落としどころは多分40円前後です。理由は考えてみてください。
(*3)これは、私が以前別のコラム「ゲームで誰かを妨害すると、妨害したプレイヤーとされたプレイヤーだけが損をして、
   他のプレイヤーに相対的に得をさせてしまう場合が多い」と書いた事の裏返しでもあります。
(*4)恥ずかしながら私自身「交渉ゲームで勝つ為には、いかに相手を騙して自分に有利な交渉をまとめるかがポイントだ」
    と思っていた時期がありました。(汗)
(*5)「カタン攻略のヒント出張版」の記事のヒント7にも、同じような事を書きました。

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